アトキンソン氏著「日本企業の勝算」が素晴らしい
デービッド・アトキンソン著「日本企業の勝算ー人材確保×生産性×企業成長」を読んだ。素晴らしい本だった。
前著の「日本人の勝算」もそうだったが、アトキンソン氏の分析を形容すると、
「データに基づいていて説得力がある」
「世界中の数多くの論文を引用していて視野が広い」
「日本を良くしたいという思いが伝わってくる」
一言でいうと、「深い」のだ。
まずアトキンソン氏の提言を政策レベルで集約すると2つになるだろう
「え、なぜ??」「どこがすごいの??」という声が聞こえてきそうだ。
ただ、日本がここ何十年も成長していない原因についての、アトキンソン氏の分析を理解できると、上記の提言がいかに的を得ているのかが分かってくる。
氏の分析によると、日本という病の本質は「生産性が向上しないこと」であるが、その根本的な原因は
- 日本は規模の小さい企業が多すぎる。その大きな要因は中小企業政策。企業の成長を阻害する補助金や税制優遇などが多く、小規模企業で居続けるインセンティブになってしまっている。
- 規模が小さく、経営の質が低く、成長する気がなく、生産性の低い企業に、多くの労働者が低賃金で「搾取」されている。つまり、「人材が無駄遣い」されている。その背景に「Monopsony」(雇用者が労働者に対して強い交渉力を持ち、割安で労働力を調達できる)という問題がある。
要するに、日本は何百万人もいる中小企業の社長に「甘すぎる」のだ。
年間800万円もの飲食の損金算入ができるためキャバクラ代にまで税制優遇が効いて、
時給1000円ぽっちで労働者を安く雇用して搾取しているくせに、「雇用してやっている」と上から目線で威張り散らす。
そんなぬるま湯につかった社長たちの中で、「企業を成長させて生産性を上げ、雇用者の給料を増やしたい」と思い果敢に挑戦する人が果たしてどのくらいいるのだろうか。全員とは言わないが、ぬるま湯につかり現状維持が心地よいという社長が多いのではないか。
そして、こういう社長たちが現状を維持をするために、日本人という優秀な労働者を生産性の低い会社に固定化させ、全体として日本がじり貧の道を歩もうとしているのだ。
この短い文章でアトキンソン氏の深い分析をすべて伝えるのは難しいと思うので、ぜひ本を買って読んでいただきたい。この本には、日本という病に対する重要な処方箋が書かれている。